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薄紅の雪が降る頃に
私達は再び出会った

本当は出会うはずのない
君と私が…―――



―――記憶の片隅に残る風景がある。
山の上に一面に咲く薄紅色の桜、見下ろす先の穏やかな海。そして舞う雪。
その下で笑い合う二つの声…。
それは幻想的で夢みたいな記憶の欠片。



肌に感じる空気は少し肌寒いのに、吹く風は暖かく感じる冬と春の境目。
おじいちゃんが入院したと聞いて、ママの実家へとやって来ていた。
飛行機と電車を使って半日以上掛かるこの場所は、山と海に囲まれた小さな町。
正に田舎と呼ぶに相応しいここに来たのは、実に八年ぶりだった。
「もー心配したのよ!」
ママはおじいちゃんの顔を見るなり、怒るみたいに声を上げた。
おじいちゃんは白い毛の混じった眉を下げて、申し訳なさそうに笑う。
「はは、悪いなぁ。大した事は無いって言ったんだけどな。」
そうは言いながらも、足にギプスをはめてベッドに横になる姿は、痛々しい。
事故で入院と聞いたから、何か大きな怪我を負ってしまったんじゃと、不安を抱きながらここまで来た。
特にママは動揺が隠せない程で…。
だけど蓋を開けて見たら、農作業の帰りに原付に乗って転んで足を打撲したという内容。
「まったく。ちゃんとそう言ってよね!」
ママは苦々しくおばあちゃんに目を向けると、おばあちゃんは飄々と答える。
「大した事無いなんて言ったら、あなた来ないかもしれないでしょ?」
少し嫌味のこもった小言を言われ、ママは少し気まずそうに肩を竦めた。
おじいちゃんはそんな二人のやり取りを、微笑ましく見守ると目線を私に向けた。
「リンちゃんも、こんな遠くまで悪かったね。」
皺がくしゃっとなるぐらいまで笑う優しい顔で、私を愛しそうに見る。
「ううん!おじいちゃんが思ったよりも、元気で良かった!」
その笑顔につられて私も笑顔を返せば、おじいちゃんは皺をより寄せた。
私達のやり取りに、おばあちゃんも優しい顔をしてた。
物心付いてから会った事の無かった二人に会うのに、正直戸惑っていた。
だけど会ってみれば、そんなわだかまりは感じられなくて、さすが血の繋がりだと思った。

従姉のメイちゃんのお迎えで病院を後にして、ママの実家に帰る。
窓から見える風景は、初めての様に感じるけど、懐かしいとも思えた。
それは私が、小さい頃にこの土地で育ったからだろう。
パパの仕事の都合で、小学生に上がる頃に東京の端っこに越した。
ある程度の都会なので、こういう場所はやっぱり新鮮だ。
窓を少し開いて息を吸い込むと、少し暖かみを帯びた潮の香りの空気が入って来た。
本当は春休みにはまだ一週間程早い。
だけどおばあちゃんから電話を受けた時、パパが仕事で来れないと言った。
混乱気味のママを一人にする訳にもいかなかったから一緒に来た。
久しく会ってないおじいちゃん達に会いたかったってのもあるけど、本心は違うのかもしれない。
向こうにいても何だか楽しくないというのもひとつの理由。
別に友達もいるし、部活だって面白いし、不満がある訳じゃない。
だけど何だか私は酷く無気力感を覚えていた。
何かが足りない…どこかに置いて来てしまったみたいな…それは不思議な感覚なのだけど。
その答えはあの記憶の中にあるんじゃないかと、いつからか漠然と思っていた。
私の住む街には、いくら探しても見つからなかったその場所。
もしかしたらそれはここでの記憶なんじゃないかと、淡い期待を抱いていたから来たと言うのが本心。
そう、それは淡い期待だった。
窓の外を見ていた私の目に、それが入って来るまでは…。
私は息を飲んで目を見開いた。
まだ桜が咲くには早すぎる時期。
それなのに車が通り過ぎる山の上には、確かに薄紅色の花が咲き誇っていた。
「そっか、もう山桜の季節なのね。」
ママがそんな事をポツリと呟いた声が、耳に入って来たけど返事が出来ない程に私は目を奪われていた。



>>>本文22p中2.5p公開 レンが出て来てないとか…
ちゃんと出ますからね!w





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